3次元空間と身体


私たちは3次元空間の中を移動し,立体的な物体を認知、操作して生活しています。3次元的な空間的注意が脳における早い視覚処理段階を調節すること,さらに視覚刺激を身体として捉えることが3次元的な空間認知操作を促進することを見出しました。3次元空間における注意には、脳におけるwhat経路やwhere経路などさまざまな空間座標系が関わると考えられます。物体を構成する知覚体制化が生じる系もそのひとつと考えられるため、平面上の注意移動やゲシュタルト知覚の研究へも発展しています。

平面上の注意移動


私たちは2次元平面上の画像やテキスト上でも多くの作業を行いますが,そのような状況は人類の進化の歴史上はまだ新しい局面と言えるかもしれません。一方で、多くの認知心理学や脳科学の実験は技術上平面上で行われます。本研究室では平面上の刺激の形状や複数の刺激間の類似によって「思わず」生じる注意移動が,複数の神経処理段階で起こることを見出しました。しかし2次元平面上での実験は、3次元空間における一部分を切り取った特殊な状況であるため、それらが3次元空間においてどうなるのかさらなる検討が必要です。

ゲシュタルト知覚


3次元であれ平面であれ、世界には刻一刻と変化する無数の刺激があるのに対して、私たちが処理できる情報量には限りがあります。複数の刺激を意味のある単位や構造にまとめれば,処理を効率化することができるでしょう。そのようなゲシュタルト知覚のはたらきは基本的に処理資源を要しない自動的処理によってなされると考えられますが,心理状態や個人によって同様ではないことを見出しました。ゲシュタルト知覚は注意によっても変わるため、注意機能の個人差も含めた検討が求められます。

文字と視覚単語

世界を構成するさまざまな刺激のうち、文字はとても身近なものです。習得した文字も基本的に自動的にまとめ上げられ処理されると考えられていますが,ひらがな文字に対して,処理は必ずしも自動的ではないこと,さらに文字の組み合わせである単語の処理が一つの文字の処理より前に起こることを見出しました。文字や単語といった視覚対象が3次元空間の文脈においてどのように処理されるのか、知覚機能や注意機能の個人差によってそれがどう変わり得るのかも未明の課題です。

時間とリズム

実生活の認知機能の理解には、3次元の空間文脈に加えて時間文脈への着目も欠かせません。またさまざまな情報は神経活動の同期リズムによって符号化されること、そしてそれらは外界からの刺激によっても変調されることが分かっています。3次元空間における時間文脈の影響に関する研究が求められます。

対人と感情

これまでおもに中立的な刺激を用いた実験を行ってきましたが、対人的な社会的文脈や感情的な意味は私たちの生活の中核です。蓄積されてきた知見と研究方法論を土台に発展させて,刺激がもつ意味とそれが引き起こす感情の影響に関する研究が必要とされます。とくに3次元空間や仮想空間における社会的・感情処理の研究は、さまざまなコミュニケーションの形態が開発される現代において重要な課題でしょう。